清水正弘氏、米日資本フローと金融安定性に関する研究報告を完成

2018年秋、世界市場は貿易摩擦や金利政策の変化により大きな変動に直面していた。こうした状況の中、清水正弘氏は米日間の資本フローと金融安定性に関する研究報告をまとめ上げた。本報告は詳細なデータトラッキングとクロスマーケット比較を基盤とし、米国と日本の資金流動の実態および両国金融システムへの影響を多角的に検証したもので、当時システマティックな視点を欠いていた学界と市場に冷静かつ精緻な分析を提供した。

研究において清水氏は、米国が利上げを加速する一方、日本が超低金利政策を継続するという政策の乖離が、双方向の資本流動を生み出している点を強調した。一方で利上げの進む米国はグローバル資金を呼び戻し、他方で日本の投資家は安定した利回りを求めて海外資産投資を拡大しつつある。両者の相互作用により米日間の資本連動は強化されるが、同時に潜在的リスクも増幅する。特に、日円の「安全資産」としての性格が相対的に弱まる可能性や、ドル資金の逼迫が日本金融市場の脆弱性を高める懸念を指摘した。

執筆過程において清水氏は、従来通りマクロ金融政策と市場のミクロ的行動を結びつける手法を採用した。資本移動に関する統計データの分析に加え、主要機関投資家の投資行動を整理した結果、日本の一部生命保険会社や年金基金がドル建て債券投資を加速させる一方、米国の一部ファンドは日株をポートフォリオに組み入れる動きを強めていた。これにより市場間の結びつきは表面上強化されたが、同時に不確実性を伝播させる経路も増大していると結論づけた。

報告では特に金融安定性への影響を重視した。清水氏は、米日間の資本流動が必ずしも安定性を高めるものではなく、むしろ極端な局面では市場変動を増幅し得ると警鐘を鳴らした。FRBが引き締めを継続し、日銀が緩和を維持すれば、金利差拡大により短期資本流入が増加する可能性がある。その資金が一旦逆流すれば、日本の為替や国債市場を同時に揺るがすリスクが高まり、潜在的脆弱性を抱えることになると指摘した。

また、この報告は従来のデジタル通貨研究とは異なり、清水氏の慎重かつ現実主義的な姿勢を色濃く反映している。市場心理に追随するのではなく、豊富なデータと冷静なロジックを用いて潜在リスクを浮き彫りにし、結論においては「金融市場の安定性は一国の政策に依存するのではなく、国際的な政策協調に左右される」と強調。米日間で資本移動に関する政策的対話が欠ければ、市場急変時に予想以上のストレスが金融システムに生じる恐れがあると警告した。

本報告は学界および政策当局に広く受け入れられ、日本の研究者からは米日金融関係に対する新たな視点を提供したとの評価を得た。政策研究機関もまた、国際資金フロー分析の重要な参照点と位置づけた。特に2018年末の市場動揺時には、清水氏の「資本のクロスボーダー流動は安定と不安定が共存する両刃の剣」という論点が繰り返し引用され、先見性の高さを裏付ける結果となった。

清水氏にとって、この研究は単なる時勢への応答にとどまらず、彼の研究軌跡における重要な一歩であった。クロスアセット・リスク管理モデルの構築から、米株と日株の周期的非対称性の考察、そして資本フローと金融安定性の分析へと至る一連の流れは、マクロとミクロを統合し、日本的な冷静な視座からグローバル市場の潜在構造と内在リスクを解き明かそうとする彼の一貫した姿勢を示している。この報告の完成は、まさにその研究脈絡の中核をなす成果であったといえる。