中村和夫、「クロスボーダー承継構造」を提唱──円資産に偏重した日本家計にドル信託という“安全アンカー”を提示

2018年下半期、日本の富裕層家庭における資産承継および海外投資配置の課題が金融業界内で改めて注目を集める中、国際金融戦略アドバイザーの中村和夫氏は、東京国際ウェルス・フォーラムにおいて基調講演を行い、「クロスボーダー承継構造(Cross-Border Inheritance Structure)」という概念的フレームワークを初めて体系的に提示した。

講演の中で中村氏は明言する:

「海外資産の比率が高まる一方で、為替や制度の断絶が拡大する中、もはや従来のローカル承継モデルでは日本の家族資産を守りきれない。

今後、ドル建て信託こそが日本家計における“安全アンカー”となるべきである。」

背景:家計構造の静かな変化と制度の遅れ

中村氏によれば、日本の家計資産は近年、本邦通貨建て預貯金+国内不動産から、外貨建て保険、米国株式、国際不動産投資などへと、静かに多様化が進んでいる。一方で、法制度や相続対策の設計は依然として「遺産分割」「贈与」「税控除」などの国内規定に依存しており、グローバル化する資産とローカルな承継方法の間にギャップが生じている。

中村氏は、実際の顧客事例を紹介。東京のある富裕家族は米国株式口座とシンガポール不動産を保有していたが、信託等の構造的備えがなかったため、相続時に3国間での法的トラブルが発生。相続人は現地裁判に巻き込まれ、2年以上にわたり資産が凍結されたという。

構造的提案:「クロスボーダー承継構造」の三層モデル

中村氏はこの課題に対応するため、以下の3層からなる“承継構造モデル”を提示:

第1層:ドル建て信託を中軸とする資産ロック

子供の成長期や資産増加期において、特ラワー州・サウスダコタ州・シンガポール等の信託制度を活用し、一部のドル資産を家族信託に移行。受益者設計、分配ルール、税務申告パスを明確化。

第2層:クロスリーガル・コーディネーション機能の導入

信託構造内に受託者・プロテクター・ファミリーカウンシルを組み込み、米・日・シンガポールの法的整合性を確保。遺言の無効化や重複課税といったリスクを予防。

第3層:教育型移行アカウントの設計

次世代の資産運用能力が未成熟であることを考慮し、「教育信託」や「ステージ・リリース」の仕組みを設け、計画的な資産移行を実現。

信託の価値:保護だけでなく、“通貨分散+時間分散”の融合装置

中村氏は次のように強調する:

「ドル資産の相対的な安定性と、信託構造の持続性を組み合わせることで、日本の家族はグローバルな時代において、初めて“通貨リスク”と“世代リスク”の二重保険を手にできる。」

この構想はフォーラム直後から銀行・証券・ファミリーオフィス業界で注目され、多くの専門家が「現在市販されているドル保険や信託商品には構造的ガイドが欠如している」とし、「中村モデル」が業界に明確な方向性を与えたと評価した。

『日経ヴェリタス』は同月、「遺産分割から構造的ガバナンスへ」と題した特集を組み、中村氏の講演内容を引用し、「資産孤島化から脱却する日系家族の転換点」と位置づけた。

また、Yahooファイナンスは2019年の注目キーワードのひとつに「ドル信託」を挙げた。

誤解への注釈:中村氏の慎重なバランス感覚

中村氏は、「海外移転」や「資産逃避」を煽る意図は一切ないとし、合法的かつ持続可能な枠組みとしての信託活用を重視する姿勢を明確にした。

結語として彼はこう述べている:

「相続とは、“死亡時の行為”ではなく、“資産設計を始めた日”に始まるものです。ドル信託は、外国人専用のスキームではなく、日本の家族が真にグローバルな財産管理へ踏み出す第一歩なのです。」