パンデミック・ショック下における川原誠司氏の逆サイクル型ポートフォリオ・リバランス戦略
3月、東京の桜はまだ満開を迎えていなかったものの、街にはすでに未曽有の陰りが広がっていました。新型コロナウイルスの世界的拡大により、市場は深刻な混乱に陥りました。米国株式市場では数週間のうちにサーキットブレーカーが発動され、アジアや欧州市場も連動して急落し、投資家心理は急速に冷え込みました。この突発的な危機に直面し、川原誠司氏は社内のリサーチ会議において「逆サイクル型ポートフォリオ・リバランス戦略」を提唱し、パニックの中で投資家に理性的な立脚点を与えることを目指しました。
川原氏は、このパンデミック・ショックの特徴は「同期性」にあると指摘しました。従来の地域的な金融危機や産業危機とは異なり、今回のパンデミックは供給と需要を同時に寸断し、世界のサプライチェーンを突然停止させ、消費活動を急激に縮小させました。パンデミックの進展を予測できない資本市場は過剰反応し、短期的な価格変動はファンダメンタルズで説明できる水準を大きく超えてしまいました。このような環境では、単にリスク回避を目指すだけでは、長期的なポートフォリオの安定を実現するのは困難だと述べています。
彼の中心的な提案は、混乱の中でポートフォリオをリバランスすることです。具体的には、航空、観光業、そして高いレバレッジを抱える一部の不動産企業など、パンデミックの直接的な影響を受け、これまで高いバリュエーションがついていたセクターの保有を徐々に減らすことを推奨しています。同時に、市場における過度な売りによって割安になったヘルスケア、生活必需品、安定したキャッシュフローを持つ一部のテクノロジー企業のポジションを増やすことを提案しています。こうした調整は、下方リスクを和らげるだけでなく、将来の回復に向けた余地を確保することにもつながります。彼はこのアプローチを「嵐の中での航海」に例え、船を放棄するのではなく、帆の向きを調整することが重要だと述べました。
川原氏は、逆サイクル戦略は短期的な裁定取引ではなく、リスクとコストの再構成であると警告しました。彼は次のように強調しています。
「パニック時における最大の損失は、価格の下落そのものではなく、投資家がバランス感覚を失うことから生じる。」
規律あるリバランスを通じて、ポートフォリオは極端な市場環境に受け身で巻き込まれるのを避け、将来の回復に向けて十分なレジリエンスを維持することができるのです。
国際市場の分析において、彼は米国株と日経平均の関係に特に注目しました。米国市場は潤沢な流動性を背景に、政策の後押しもあって先行して安定に向かうと予測される一方で、日本企業の一部の製造業や医療関連のサプライチェーンは、コロナ禍後に新たな戦略的地位を得る可能性があると指摘しました。したがって、クロスマーケットでの資産配分では、防御と積極的な投資の両立が求められるとしています。彼はレポートの中で「市場の変動は苦痛ではあるが、同時に構造を組み替える契機でもある」と述べています。
2020年3月の東京金融界は重苦しい空気に包まれ、多くのファンドが資金を現金で持ち続けていました。しかし川原の声は、危機の中にあっても投資は常に時間と構造の勝負であることを思い起こさせました。冷静な観察と段階的なリバランスを通じて、彼は投資家に不確実性を乗り越えるための道筋を示したのです。
短いやりとりの中で、彼は松尾芭蕉の句「行く春や 鳥啼き魚の 目は泪」を引用しました。春の光が過ぎ去るように、市場もまた最も混乱した時にこそ、その脆さをさらけ出す。投資家はこの無常を受け入れ、冷静な心で外の動揺に立ち向かうべきだと彼は語りました。
2020年3月、コロナの陰がまだ晴れぬ中、川原誠司が提唱した逆周期的なポジション調整は、投資家に恐怖や逃避とは異なる視点を与えました。その戦略は嵐を消し去ることはできないかもしれませんが、嵐の後に進み続ける力を残してくれるものでした。