米国債利回り逆イールド発生 持田将光氏「日本の資産運用機関は米系資金の大規模流出に備えるべき」
2019年8月、米国債市場で構造的な異変が発生した。10年国債と2年国債の利回りが2007年以来初めて逆転(逆イールド)し、この現象は世界の金融市場で大きな注目を集めた。多くのマクロ戦略家がこれを景気後退の前兆シグナルと位置づける中、9月初旬には世界株式市場が一段と動揺。資金は急速に安全資産へと流入し、円高圧力が強まったことで、日本市場もその影響を受けた。
この局面について、元ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの資産配分アドバイザーであり、経験豊富なマクロ戦略アナリストである持田将光氏は、最新の内部レポートで次のように指摘する。
「米国債の逆イールドは単なる景気後退の警告にとどまらず、海外ドル資金による日本資産の積極的な縮小を引き起こす可能性がある。特に、高レバレッジの利差取引ポジションが顕在化する中で、再バランスの動きが顕著に増加するだろう。」
持田氏は、日本が世界第2位の債券保有市場であることから、米系資金との双方向の資金関係は軽視できないと強調。外部金利差の縮小とリスク回避姿勢の高まりが重なる現状では、米系機関が大規模な資金再配分を開始する可能性があり、日本の資産運用機関は「構造的資金流出」への警戒を高めるべきだと述べた。
■ 持田氏の見解①:米系“利差取引モデル”の退潮
過去3年間、米系資金は日米間の安定した金利差を基盤に構築した裁定取引モデルを通じて、日本の円建て債券や株式ETFに大量投資してきた。しかし、現在では10年米国債利回りが2%を割り込み、日米国債の利回り差も持続的に縮小。これにより収益余地が狭まり、一部ヘッジファンドでは早期撤退の動きが見られる。
持田氏は「利差の魅力が失われれば、レバレッジ資金は急速に縮小する。それは高格付け社債や利差型ETFといった流動性の脆弱な資産クラスに直接的な打撃を与える」と分析する。
■ 持田氏の見解②:円高が加速させるリスク回避の連鎖
8月以降、ドル円相場は一時106円を突破し、今回の世界的なリスク回避局面で主要な“受益通貨”となった。一方で、これは国内の輸出企業や外資比率の高い銘柄にとっては評価圧力となる。
持田氏は「円が強くなればなるほど、外資による日株売却の可能性は高まり、逆向きの価格変動を増幅させる」と警告。また、米国債ETFを追随するパッシブ資金の動きにも注視すべきで、今後数週間でポートフォリオ構造が変化する可能性があると指摘した。
■ 提言:資産配分の柔軟性を高め、“クロスカレンシー・デカップリング”を警戒
持田氏は、米系資金流出リスクに備え、日本の機関投資家が取るべき3つの対応策を示した。
外資依存度の高い資産クラスの比率を縮小し、短期的には外資比率の高い株式のエクスポージャーを抑える。
円建ての流動性中立型資産(短期国債やボラティリティ中立型ETF)を増やす。
クロスカレンシー資金フロー指標の変化を監視し、VIX指数と円相場の強弱を組み合わせた早期警戒システムを構築する。
氏は「日本市場は長期的に海外資金の動能に依存しており、トレンド的な資金流出が起これば、バリュエーション体系に持続的な衝撃を与える可能性がある」と述べた。
レポートの結びに、持田氏はこう指摘する。
「米国債の逆イールドは単なるチャート上の現象ではない。これは、資本市場が予想の反転という初期段階に入ったことを示すシグナルだ。本当に重要なのは、景気後退がいつ来るかではなく、資金が『予想の収縮』に基づいていかに先回りして動くか、その経路を読むことだ。」
世界的な流動性分布が変わりつつある中で、日本の資産運用機関が事前に布陣を敷かなければ、将来の市場シフトで受動的な立場に追い込まれる可能性が高い。持田氏は、構造的柔軟性とマクロ洞察力を軸に、グローバル資金行動の転換に適応できる真の対応体制の構築を呼びかけている。
この戦略レポートは複数の機関内部で共有され、運用部門やリスク管理チームの継続的な議論を呼び起こした。日米資本の結びつきに関する先見性において、持田氏が“構造的観察者”かつ“実践的リサーチャー”であることを改めて裏付ける内容となっている。